バリ島 ★ぶうげんびりあ (HTML版)


◆◆◆ 088 / 女主人のため息と涙池 ◆◆◆

女主人のため息と涙池

ヌードデッサンの会に来ている、アメリカ人の『スー』。

彼女は、7年も日本で暮らしていたので、日本語も少し話せるし、日本食が好きな女性である。

ある日、ヌードデッサンの会で、アタシが日本食を自炊している話になると、彼女は切り出した。

『ウチには、蕎麦があるんだけど、作り方を忘れてしまったの。リカ、ヨカッタラ、作り方を教えてくれないかしら?』

彼女は、友人たちの間では、バリで家を建てたので有名だった。

最近の話といえば、家を持っている外国人が払う、バンジャールフィー(村への税金みたいな寄付金)が値上がりしてしまい、

『バンジャールフィーに、アタシは殺されるわっ。』

などと愚痴るばかり。
南国暮らしも、幸せそうには見えなかった。

彼女の家というのも見てみたかったし、どうせ暇なので、一度、ご自宅にお伺いすることにする。

そういえば、バリに長年住んでいるというのに、在住の人の家を訪問するのは初めてである。おおっ、そういえば、一回行った事があった。今回が二回目だ。

長期滞在者でも、ニヶ月から四ヶ月程度の滞在者は、安宿に泊まっている人がほとんどなのだ。家を借り、建てたりして住んでいる人は、バリ人と結婚した人以外では、やはり珍しいのである。

スーの家に着くと、お手伝いさんらしい人が出てきて、門のカギを開けてくれる。中に入ると、どこまでも続く池があり、石畳の上を渡って中に進む。そうすると、黒い犬が吠えもせずに迎えてくれる。まるで、おとぎ話の冒頭部分のようである。

大理石張りの大きなテラスには、大きなテーブルが二個。リビングに隣接した台所に、リビング。奥には優しい曲線を描いた階段。階段の奥には、半露天のバスルーム。

総大理石張りの豪華な家であった。

彼女は、『全部アタシがデザインしたのよ。』と、嬉しそうに話してくれる。『それは、大変だったっすね。バリで、自分の思い通りに家を作るには、相当なストレスもあるはずですから。』などと同情すると、彼女も頷いた。バリに滞在した人でないと理解できない会話である。

これまた日本で仕事をしてはバリに来ている、彼女の隣の友人もやってきて、蕎麦タイムが始まる。アタシは、昼食用に作った薬味や氷を持参して、蕎麦の茹で方を実演してみせる。

スーの友人は、アタシが持参した氷を洗面器に開けている姿を見て『ユーアー、ストロング』などと賛辞する。洗面器に、氷水を作っているだけなのに、何故、アタシが強いのかよく解らなかったが、とりあえず、こういうときには、『サンクス』と言っておこう。

三人は、日本人の話を肴にしながら、ライステラスを望むバルコニーで蕎麦を頂く。おおっ。これが真のバリライフだわぁ。

昼食が終わる頃になると、雲行きが怪しくなり、今にも雨が降りそうな気配。アタシは、『バイクなので雨が振る前に帰宅したい。』と申し出て、帰ろうとすると、スーは、『今日はこれからニュークンに行くの』と話し出す。

何しに来るのか尋ねると、最近、我が村に出来たらしい、『怪しい占い師』に、将来を見てもらうのだそうだ。豪邸に住んでいても心の不安というのは、消える事が無い。

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