バリ島 ★ぶうげんびりあ (HTML版)


◆◆◆ 087 / ポーレイン 小さな家の小さな個展 ◆◆◆

ポーレイン 小さな家の小さな個展

褐色のエスニックな美女ポーレインは、ある日、ヌードデッサンのセッションで、招待状を配りはじめた。

パソコンでカラー印刷した、手作りの招待状だった。開催日は夕方から夜まで、たった半日の、ささやかな個展の案内だ。

当日、珍しく忘れないで思い出したアタシは、暗くなる前に、ちょっと冷やかしに行ってみる。アルマの近くの奥まった家を利用した手作りの会場。ドロドロの細い小道をだいぶ進むと、ブロックを積んだ家から明かりが漏れ出していた。

二棟の小さな家の中には、濃いブルーを背景にした独特の画風の絵が、沢山展示してあった。合計数四十五枚。ほとんどがカンバスに描かれたアクリル画の作品。

彼女はバリ島滞在中の十ヶ月間に、四十五枚もの絵を描いたのだと言う。一週間に一枚のペースである。

一人で絵を描きつづけるというのは、結構大変なものなのだ。

バリ島では、空を見つめているだけで時間が過ぎてしまう。何かやろうとすると、膨大なエネルギーを必要とする。

彼女は、今日の個展のために、少しずつ展示できる絵を描きためて、個展の会場を探したりもした。あちこちに顔を出しては、長期滞在や現地人の友達も作っておく。芸術家は絵を描くだけじゃなくて、発表の計画も実行に移さなければならない。発表するからには、人も集めなければならない。地道な努力も欠かせない。人に来てもらうためには、日ごろから、魅力的であるとか、タダでできることは快く引き受けるとか、いい人じゃなくちゃならないのである。

開催期間が半日だということもあり、アタシが早い時間に到着したこともあるからだろうが、芳名帖には、たった五人の名前しか書いてなかった。

UBUD辺りのギャラリーで個展を開いても、母国の友人がバリまで見に来てくれるということもないだろう。バリの滞在者は、出たり入ったりしている人が多いので、仲のいい人が個展の時に、滞在中だとも限らない。暗くなってしまったら、目立たない小道なのでゲストは通り過ぎて、ギャラリーにたどり着けないかもしれない。

家に囲まれるようにしてある、ちょっとしたガーデンの中央には椅子が並べられ、お友達が、ドリンクなどを飲みながら歓談していた。星や月を見ながら、ゆっくりオシャベリする空間となっているようだ。『ああ彼女は、来た人に星や月を見てもらう為に、こんなに奥まった場所を借りたのか。』

アタシが絵を見終わる頃に、ポーレインは外で待っていてくれた。彼女はバリでの滞在を終えて、アメリカに帰るのだという。アメリカでは、デザインの仕事などをするのだろうか?アメリカでも個展を開くのだろうか?

帰り道、アタシは、まだ展示できる作品を、一枚も作っていない自分に気がついて、愕然とするのだった。

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