バリ島 ★ぶうげんびりあ (HTML版)


◆◆◆ 084 / ハンコを作ると言ってはまた散らかしてゐる ◆◆◆

ハンコを作ると言ってはまた散らかしてゐる

中学校の美術の時間、ハンコを作った事があった。

3センチ角程度のやわらかい大理石を、彫刻刀で彫るという創作活動である。

アタシは、石を横に使って、昔のタイプの英語の飾り文字で、自分の名前を彫ってみた。一度しか押さなかったその印は、やはり美術の時間に作らされた、木彫のオルゴールの中に入れて、ずいぶん最近まで大事にされていた。

とりあえず、ハンコの石が結構柔らかいという事を知っていたアタシは、あるとき画材店で、ハンコ用の石が、とても安価なことを発見する。

『石一個五十円かぁ。作ってみようかな?』というのが、そもそもの始まりだ。ハンコ用のテキスト、百五十円。ハンコ用の刀(絵の一番左の切り出しナイフのような品)二百五十円。朱肉二百円。

そして、更に、初心者キットというのがあって、道具全部と、石なども入って六百円で売っているのであった。

価格崩壊だぜおっ母さん。いくら、中国から輸入しているといっても、安すぎる。まあいい、試してみるには、ありがたい価格設定である。小さい、ハンコの本を熟読しながら、一個作ってみる。割にカンタンに出来上がる。もうちょっと難しいデザインで、もう一個作ってみる。まあまあだ。

ハンコ作りは、結構小さなスペースでできるのだ。

会社の昼休み、ハガキサイズの紙に絵を描いていたアタシは、ハンコも、会社で作ろうとひらめいた。

道具たちを、小さいビスケットの空き缶に入れ、会社に持ってゆく。弁当を食べ終わった後の十五分とか二十分の間に毎日、ボチボチと、ハンコを作るのである。別に何に使うというワケでもないのだが、自分の苗字、名前、住所、古い字体の名前の印、英語の名前。イロイロと作ってみる。

一緒に昼飯を食べていた女の子も作ると言い出して、毎日、自分の名前の印を作る。

おしゃべりをしながら、二人して、ハンコを作るのである。昼食を済ませたオジサンも、見に来たりもする。オジサンも、ハンコを作りたいと言い出して、基本的な事を教えてあげる。彼の印は、家でジックリと作る事もあり本格的だった。

難しいデザインに挑戦したりすると、うまく彫れずに、飽きてしまい、中断したまま、机の引出しにしまわれる。

しかし、誰かが『絵手紙』を始めたとか、『書道』を始めたというときに、ハンコをあげようなどと思い立って、贈呈用にまた作られる。

おえらいさんが、定年退職するときに、ビックリするほど高い紅茶を頂いた事があった。お礼にハンコを作ったら、大変喜んで下さったことがあった。以来毎年、年賀状に、印を押してくださっているようだ。

ある日その方の、年賀状の印影が、もう、ボロボロになっているのを発見する。こんなに使わなくてもなぁ。そういえば、どうせ使わないと思って、超柔らかい石で作ったんだったよなぁ。

その方は、プロにも一個作らせたのだが、そのデザインは、気に入らなかったようで、アタシが作った作品を、毎年使ってくださるのだった。

手持ちの石で、もう一つ作って、バリ島から送る。無事に届いているといいのだが・・・。

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