バリ島 ★ぶうげんびりあ (HTML版)


◆◆◆ 081 / 友のクレヨンと今も 旅してゐるよ ◆◆◆

友のクレヨンと今も 旅してゐるよ

社会人になってから、休日には絵を描いて過ごしていた。当時はまだ油絵を描いていた。高校の時に学校で買わされた絵の具が、ほぼ未使用で残っていたから、『それを使わないのはモッタイない』という、ケチ臭い動機から、アタシの芸術活動が始まったである。

絵というのはいい。何よりも、初めから終わりまで、人の手を借りずに、一人で出来るのだ。友人はみんな早くに結婚して、地方に転居してしまった。会おうとすると、遠くまで行かねばならず疲れるし、外出すれば金もかかる。

絵は、一人で時間も潰せる。飲み屋に払う金と比べれば、絵の具代なんて、一回の飲み代で何年も使えてしまう。安いものだ。絵に熱中しているときには、淋しいというともない。

アタシも、若かりし頃は、バンドをやっていたことがあった。バンドというのは、何人かが寄り合って、大いにモメて、やっと一曲、人の曲をコピーする。今から思えば、精神的に消耗した上に、想像力のカケラも感じられない時間だった。アタシの場合、もともと、音楽に執着など無かったのである。バンドでは心身共に疲れ果て、音楽そのものからも離脱し、その経験を元に、一人で完結できる趣味を持とうと、自分なりに考えたのかもしれない。

音楽の話はどうでもいい。

入社してから二年程経った時に、ワタシは他の部署に転属することになった。

取引先の会社の方が、送別会を開いてくれた時に、送別の品として頂いたのが、このクレヨンなのである。その会社には、元気のいい女の子がいて、ワタシとは気があった。彼女は、都心のデパートまで(勤務中に、)アタシの送別の品を探しに行ってくれたらしい。

『リカちゃん、こういうの、好きかなと思って。』

そう言って、デパートの包みを渡してくれた。

このクレヨンが、メチャメチャ高い品ということは、ずっと後になってから知ったのである。バブルだったよなぁ。しかも、アタシが、画家を目指す事になるなんて、この頃には、想像もつかなかったよなぁ。

それ以来、このクレヨンは、アタシが旅に出かけるたびに、バッグに入れられて、一緒に旅をしている。クレヨンというのは、なかなか減らないものだ。頂いてから、もう十年も経ってしまったというのに、まだ一本も、なくならないんだから安いよなぁ。

何故、旅先でクレヨンかといえば、他の道具を使わずに描けるからである。色鉛筆のように、広い面積を塗ろうと思った時に、何度も削らなくてもいいしゴミも出ない。カッターナイフや、エンピツ削りも不要。水彩絵の具のように、水も筆もパレットも、水入れも要らない。クレヨンのケースを開けば、すぐに絵を描き始める事が出来るのだ。

毎週通っているヌードのデッサン。今年は、クレヨンで描こうと決めた。色が美しく、作品に迫力が出るからだ。(正確には、絵が下手なので、色をつけないと、まともに見れないからである)最近は、利用頻度が高くなり、さすがにボロボロになってきた。

クレヨンの缶を開けるたびに、このクレヨンの事や、お友達のことを思い出す。アナタも、絵が好きなお友達に、クレヨン贈ってみたらどうですか?お高い品は、自分では手が届かないからね。頂くと、ウレシイのであった。

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