バリ島 ★ぶうげんびりあ (HTML版)


◆◆◆ 053 / 蜻蛉の羽根を運ぶ蟻の忙しさよ ◆◆◆

蜻蛉の羽根を運ぶ蟻の忙しさよ

マンゴーの木には、赤い蟻が巣を作っている。葉と葉を重ね合わせ、口から糸のような物を出し、葉をつなげて、巣を作る。奴らは、高いところに巣を作るのが特徴である。

一センチ程の体長の赤蟻は、『スムット メラ』と呼ばれ、バリ人にも恐れられている。毒は無いのだが、『噛み技』で、人間すら攻撃してくるからである。

雨季が始まり、二週間程すると、蜻蛉が一斉に孵化してくる。

 蜻蛉は街灯や、家の電気などに大量に集まると、一旦羽根を落とし、地上に降りる。パートナーを見つけると、その場で交尾を始めてしまうという『やりまくり』の一夜である。

プリプリとした蜻蛉は、他の生き物たちにとっても大切な栄養源となっている。

大量の蜻蛉が集まる電灯の周りには、カエル、トッケ、チチャ、膨大な数の蟻達が、数種類程スタンバイする。

トッケやチチャは、天井から、飛んでいる蜻蛉をバクバクと喰らい、羽根は残す。蟻は、羽を落とした蜻蛉を、生きたまま巣に運び込む。

我々も、蜻蛉が発生する夜は、奴らが家の中に入らないように、電気を消して、息をひそめて過ごすのである。

『蜻蛉のバイキング』は二時間程で終了となり、電灯の回りも、何事も無かったように、誰もいなくなってしまう。

焼肉の食べ放題も、カニの食べ放題も、二時間と決まっている。カエルやトッケだって、それ以上は、喰えないのであろう。

『もうこれ以上は食べられない』という顔で、巣に帰っていく。

しかし、奴らは、羽根は食べないようである。食べ物が少ない時期には、羽根まで食べてしまうのだが、今日は、プリプリが食べ放題なのだ。

胃袋は、旨いものだけで満たしたい。羽根など食べている場合ではないのである。うーむ。

カニだけをひたすら食べつづける客の気持ちを思い出さなくも無い。

どっちにしても、翌朝には、電気の下に、何千枚もの羽根が、落ちているのである。

おおっと思っていると、羽根が動いている。よく見ると、赤蟻が、一列にならんで、羽根を一枚ずつ運んでいるのだった。

赤蟻は、カルシウムが大好きで、魚や肉の骨などにも群がる性質がある。巣を作る為の糸などになるのかもしれない。

巣に運んだカルシウムを蟻達が糸にして分解し、雨水などといっしょに、カルシウムの成分が、土壌に戻る働きを助けているのだと思う。

『バリの土地が豊かなのは、このような生態系が、自然なまま残されているからなのだなぁ』と気づかされる。

蜻蛉の羽根は、掃き出したりせずに、蟻に始末を任せることになった。そして午後には、蜻蛉の羽根は、一枚残らず、巣に運ばれて行ったのだった。

おじゃら画廊のHP

Established 1998 Rica's Bar WEB SITE & Since 2003 Atelier Ojara.

Copyright (C) All Rights Reserved by Rica Ojara.

イチオシ自由律俳句の本