*-*-* 何で、あんなに汚い絵が存在するの? *-*-* 

個展に来た人が、アタシに質問してきました。

アタシが、ご説明できるとすれば、それは、油絵の乾きにくいという特徴についてです。

私の個展を尋ねてくださった、全く知らない方が、アタシの絵を見て、

『アナタの作品は、色がとってもキレイね。』

と感想を述べてくださったあとで、

『あの、汚い油絵を描く人というのは、どういう感覚なのかしら(アタシには全く理解できない)』

というご質問を頂きました。

アタシも、全く同意です。

でもまあ、理由は理解できます。

それは、『油絵の具』というのが、乾くのに何日もかかってしまことに起因します。

それから、お教室などで、センセイによっては、『黒い絵の具で線を取ってから、明るい色を加筆する』という方法を教えています。(正確には、絵を習っているほとんどの人が、この方法で絵を描いていると思われます。)

そうすると、明るい絵の具が、黒い色を引きずって、画面全体が汚くなってしまうのです。

たとえば、この絵なんかがそうです。

色があまりにも汚かったので、バリから帰国するときに、燃やしてしまいました。

この絵は、これ以上明るくすることはできません。(少なくとも、当時の私の技術ではムリでした。)

油絵の具というのは、上から何度も塗り重ねて、他の画材にはない強靭な画面と、独特の画肌(マチエール)を作れるのですけれど、反面、乾くのにとても時間がかかります。

普通の色で、だいたい、5日位乾燥させなければなりません。

赤などは、10日も20日も乾燥しない色もあるのです。

そうすると、どうなるのかという話です。

人間というのは、そんなに待てないのです。

早く絵を完成させたくて、絵の具が、まだ乾いていないのに色を塗り重ねてしまいます。

そうすると、下の強い色(黒や、青、赤など)を引きずってゆき、画面全体に、汚い色が広がってゆくのです。

これは、プーケットに旅行に行ったときに撮影した、複製画を作る画廊工房のパレットの写真です。

話には聞いた事ありましたけど、キレイなようで、こんなに汚いパレットというのは、全く信じられませんでした。

この、色の塊は、固まった絵の具の残骸です。

もう何年もパレットを洗っていないのだと思います。

絵の具は、きちんと色分けして置かれ、次々と乾いては、パレットの掃除をせず、その上に絵の具を乗せてまた描く。

そういうのを繰り返すとこうなります。

こういう絵の具を使うと、色を混ぜたときに、意図しない色が混ざってしまい、色が汚くなってしまいます。

このパレットの持ち主の方は、物凄く絵の上手い方でしたので、まあ、ある種の技術でカバーしているのだと思いますけど、どちらにしたって、アタシには全く信じられません。

まあ、絵というのは結果が勝負なのですから、描いた絵が売れればそれでよいのです。

その『絵をどのように作ってゆくか』という工程や結果だけが、作家の個性ということになるのです。

美しい絵を描いた、ルノアールの場合どうだったのかという話をしたいと思います。

ルノアールの息子の手記によると、『彼は、絵の具をほんの少しだけ搾り出し、毎回それを、完全に使い切るのだそうです。

パレットは、毎日キレイに拭き取られ、筆は、完全に洗われます。

彼は、筆はいつも、筆を一本だけ使い、その筆先がちょっとでも痛んで、乱れたら、その場で折られて、捨てられ、また、新しい筆を取り出し、制作活動は継続された。』

というようなことが書かれていました。まあ、作品を見る限り、一本だけで書かれたということはありえない作品もありますので、この記録は、晩年の話だと思いますけど。

そうして、筆をぬぐったボロ布は、毎日燃やされ、パレットも筆も、セッケンでもう一度洗って、また次の日の朝、新しいキモチで、絵の加筆を再開するのだそうです。

アタシは、この説明を読み、自分でも実践することにしました。

折角美しい色を持っている絵の具が、管理が悪いことで、本来の色を再現できないということに他ならないからです。

このときは、日曜画家の時代で、我流の私は、もっとキレイな色で描きたいのに、絵がドヨンとしてしまうということに悩んでいました。

そうなんです。多くの人は、この、『ドヨン』と汚れた、汚らしい絵を体験しているはずなのです。

でも、それが、色を置く順番を変えたり、絵の具や画材の手入れをすることで、『ドヨン』としなくなるということが解ったのです。

『どよん』の原因が、管理が悪いからというのは、管理を怠った画家の怠慢に他なりません。

私は、ルノアール程完全に手入れをしていませんけど、パレットは適度に使い捨てられ(肉用の発砲スチロールトレイを再利用しています)、筆は毎日洗われます。

たぶん、絵が汚い作品の画家というのは、『汚い絵でも構わない』と思っているのだと思います。汚いパレットと筆で、汚い状態で描き続けた場合、かなりの比率で、全体が汚くなると、アタシは経験しています。

でもまあ、プロの人には、そんな人いないですけどね。

汚い絵を描く多くの人の作品は、売れないと思います。

飾りたくないですよねぇ。

展覧会に迫られて、急いで絵を描いたりすると、絵は汚くなります。

でも、時間がありませんから、加筆して、どんどん汚くして、仕方がなく完成ということにしたという作品だったのかもしれません。

個展の前というのは、思いのほかやることが沢山あって、なかなか、集中できないものだからです。

優れた作品には、透明感があるのです。

ドヨンとしたりしていません。

それは、画家の作品に対する向上心と、絵の具に対する知識、製作過程での管理能力ということが、総合されて結果になるとアタシは考えています。

少なくとも、自分の作品が、汚いというのは、どうにも我慢がならないものですから、筆掃除くらいは、毎日しようという感じです。

とりあえず、ルノアールがどうやって絵を描いていたのかを知ることが出来たのは、私の作品にとっての転機だったことに違いありません。

今後、汚い絵に出合ったときには、作家さんに聞いてみてください。

『パレットの絵の具というのは、どんどんと重ねて使われているのですか?』

というような感じで。

でも、間違っても、『アナタの絵は、パレットを洗っていないから汚い』

などと言ってはいけません。

その方、物凄く嫌なキモチになると思います。

質問をするときには、ある程度の配慮も大切だってコトで、ご理解下さい。

ご参考になりましたでしょうか?

油絵は、本来、美しい色を持っている画材なのです。

汚い絵を描く人は、技術が足りないか、色彩感覚が不足しているか、よっぽど急いで描いたかのどれかです。

もしくは、センセイや周りの方も、汚い絵を描く人ばかりで、結果に対する追及が欠けているのかもしれません。

どちらにしたって、その人の作品がアタシの絵よりも高く販売されている現実に間違いはありません。

どちらに価値があるのかというのは、あくまでも、買う方が決める話で、絵の汚さとは関係がないということです。

また、別な観点から考えてみます。

額縁屋のオヤジ曰く、『絵の具をそのまま乗せたような作品は、扱い筋に好まれない』のだそうです。

美術学校などに行くと、必ず、『イロイロな色を混ぜて色を作る。』と教えられるという話も耳にしました。でありますからして、絵を買う人は、そういう絵を中心に買うというのが普通らしいのです。

どーなのかなあ。

絵の具の変色というのもあるんじゃないっすかね?

昔の絵の具は、今ほど安定していませんでしたので、混ぜ方を間違えると、長い時間をかけて、酸化や化学反応で、変色したりすることもありました。

今は、絵の具の知識が進んできて、色があまり変色しなくなったらしいですけど、モノが不足していた時代、描かれた当時は、鮮やかな色だったということは、アタシには否定できません。

そんな理由があり、汚くみえる絵というのも、世の中に沢山あります。

アタシは、ピカソやマティスを中心に、印象派の絵ばかりよくみるので、あまり日本の洋画とかに詳しくありませんけどね。

宮本三郎の晩年の作品は、色が宝石みたいに美しかったです。

結論。

アナタがすべきことは、気に入った作品を求めるということだけで、『この絵は汚くて嫌だなあ』と思ったら、買わなければいいということだと、アタシは思います。

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