版画を買う前に知っておきたいこと その3

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●画廊のお仕事

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画廊が絵を扱っていて、一番心配しているのは、ニセ絵かどうかです。

価値の無いものを、価値があると騙されて買うと、損するのは、自分やお客様なのです。

ニセを扱うと、お店の信頼が無くなります。

ですから、画廊は、自分も損しないで、お客様にも損をさせない、一番安全な方法を取ることが多いです。

それは、作家から、直接買いあげることです。

画廊の経営というのは、投機に近い部分があります。

まだ、若くて、才能のある画家を見つけては、まとめて安く買い上げてあげるのです。そうして、何年か寝かしておく。

案の定、その人が活躍しはじめて、世に出た頃に、ドーンと、高値で売り出すのです。

大量の在庫を持った画廊は、自分も儲けたいので、

セッセと、アーティストのプロデュースをしたり、売り込みをしたりもします。

そうやって、画廊に、アーティストが育てられてゆくと言えなくもありません。

画廊のカモになっていると言えなくもありません。

でも、多くのアーティストは、他に頼るものもないし、有名になって、

画廊が高い値をつけてくれれば、自分の他の絵もそれと近い値段で売れるので、

まあ、流れに逆らわずに生きているということなのだと思います。

最近では、画廊は作品を買い上げたりしないで、委託形式を取るところも多いです。

売れるかどうか解らない品を買い上げるというのは、リスク高いからです。

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●ニセモノと本物、版画の場合

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ニセ絵や、復刻版には、いくつかの種類があります。

1.全くの他人が、その人の名前を使って、価値の無い作品を高く売ること。

2.版画の場合、著作権が切れた有名な木版画を、複製版画にして、販売すること。

3.有名作家の死後、作家が作った作品と全く同じ版を使って復刻版を大量に印刷すること。

一番目は、論外です。違法行為です。明らかなる詐欺行為です。

復刻版とか、複製品というのと、ホンモノの違いはね、お値段なんです。

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●著作権が切れた作品の複製

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こちらは、法律で許可されているのです。

著作権の期限が切れたら、どんな人でも、そのデザインを使って、

金儲けしてもいいのです。アナタも、歌麿や、広重の作品でカレンダーを作って、

儲けることができるんです。(儲かるかどうかは、解りませんけど・・・)

優れた木版画の職人さんでも、自分の作品は、なかなか売れないので、

歌麿とか、広重なんかの木版画を復刻して、生活の足しにしている方の話を聞いたことあります。

でも、広重の作品は1枚300万円して、複製品が3万円だとします。

彼の世紀を超えた、洗練されたデザインの作品を、そんなに安い値段で飾れるなら、

お客様にとっても、悪くない話だと思います。

ここで問題なのは、全く新しい品なのに、『これは、昔、本人が刷ったホンモノだから高い』

などと言い張り、お客様から、不当に高い代金を引き出している人がいることです。

それは詐欺といいます。

美術業界には、こういった、詐欺まがいの商法をしている人も沢山いるみたいです。

本物というだけで、100倍も販売額が違うんですからねえ。まあ、キモチは解らなくもないっすけどね。

優れた職人が複製した場合、作品には、ほとんど差が無い場合も多いんです。

シロウトにも、画廊にさえ見分けつかない場合も多いんです。

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残された版と遺族の承諾

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版画の場合、著作権がまだ切れていませんが、遺族の方が許可して、刷り増しを認めている場合があります。

作家本人が生きていたら、有り得ない話です。

これは、どういうことかといえば、版画の場合、作家が亡くなっても、遺族などによって、版が保管されていることが多いのです。

版は、保存状態がよければ、まだ何百枚も刷り増せる可能性があります。

作家さんは、1版当たり、30枚とか、50枚とかのエディションにして、作品の付加価値を高めている場合が多いです。

よっぽどの人気作家でなければ、200枚とかのエディションは、有り得ないのが普通です。

ところが、作家さんが死ぬと、生前の功績が認められて、絵の値段が上がったりする場合があるのです。

そうすると、どんなことが起こるのかといえば、『儲かる』と目をつけた画廊が、家族を説得して、版を借り出して、版画を作り増したりすることです。

家族にも金が入るので、作家センセイが無くなって、金に困り始めた家族が、セッセと売り込んでいる場合もあるみたいです。

そういうときには、『死後作られた本人の版を使った、最印刷品です』などと表示されていることが多いです。

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死後刷り増しされた作品

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死後の刷り増し版画は、ホンモノのセンセイのサイン入り版画の10分の1位程度の

値段で買うことができるので、ご予算の無い方で、本物が欲しい方にはオススメです。

この、死後の刷り増し版というのは、ねらい目です。

『サイン入り』は一生ムリでも、洗練された作家さんのホンモノに間違いないからです。

オジャラは、いくつも買っています。

オギスのリトグラフを2枚持っています。どちらもリト刷りの大きな版画で、

オギスの工房で、彼の生前と死後に刷られた作品が一枚ずつです。価格は、2万円と、4万円でした。

ちなみに、本人のサイン入りは、68万円くらいしています。

全く同じ品なのに、サインが無いというだけで、メチャクチャ安く手に入れられるということです。

オジャラは、もう一つ持っています。

瑛九(池田満寿夫のセンセイ)という作家の作品を買いました。死後、

池田満寿夫がプロデュースして、彼の版を使って刷り増した作品です。

アタシは、サインは、スタンプサインでしたけど、こちらを買いました。安かったからです。

本人が刷った作品なら15万円なのに、死後刷られたというだけで、

価格は18000円なのです。アタシは、版画に15万円も出しませんけど、

2万円程度なら、買ってもいいと考えているのです。

それは、本人が作った版に間違いがないのです。(もし違っていても、

作品は素晴らしいので、例えば贋作でも、2万円以上の価値があると、

アタシは確信しています。その程度なら、騙されていて諦められると考えているのです。)

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●人気作家の場合は、刷りは外注することが多い

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たとえば、山本容子であっても、彼女は人気作家なので、刷りは他の人に頼んでいます。

刷り師さんに刷ってもらった作品に、自分で色をつけて、サインを入れて、額装して、販売しているのです。

ということは、彼女の死後、誰かが、彼女の版を使って印刷した場合でも、

それは、彼女の作品ってことになりますよね。(色は同じようには塗れない可能性高いですけど。)

池田満寿夫も、売れない時代は、だいたい、1版につき、

50枚程度のエディション数で、自分で刷っていたとらしいです。

売れ始めて、エディションは200枚程度になりましたが、価格の方は、

大きい作品であっても、高くても20万円程度以上にはしなかったというのが、

美談として残されています。

多色刷りで200枚も作るのは大変なので、人に頼んでいただろうと考えられています。

もしくは、版画家の場合、自分の所で人を雇い、工房として、

連携して作品作りを進めることも多いみたいです。

200枚も刷った版画は、更に刷り増しできるかどうか、心配です。

でも、30枚しか刷っていない版の場合、あと、170枚は、ある程度の品質で、

刷り増しが可能ということなのです。

版画の工房では、版画を気軽に楽しんでもらうために、作家のサイン無しの、

印刷品としての安い作品を、画廊に販売して、知名度を上げるのに利用したりしています。

これは、死後復刻された版画と似ていますよね。ようするに、ホンモノと同じ版を使ったけど、

値段が安い版画というのが存在するってことなんです。

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ニセとホンモノの見分け方

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ニセ物と本物を見分けるのは、アナタには不可能っす。

ニセと呼ばれるのは、自分で作った作品なのにも関わらず、

有名作家さんのサインを書き入れたり、画風を真似して作った作品のことをいいます。

そういう作品は巧妙に作られており、素人には見分けるのが難しいです。

騙されても全然オーケーというお金持ちはともかく、限られたお金で、

きちんとしたアートを買いたいと思っているアナタが手を出すべきではありません。

自分で絵の価値が判断できないんですから、まず、絵を、沢山見ることから始めましょう。

そうして、これからアートを買おうと思っていらっしゃるアナタは、生きている作家を狙いましょう。

まだ値段も安いですし、アーティストと知り合いになれるチャンスもあります。

個展やグループ展は、あちこちで開かれていて、無料で見られます。

ギンザ街では、アチコチの画廊で、毎日個展が沢山開かれています。

多くの場合、作家さんが、画廊に詰めていて、直接話しができたりもします。

初日にはパーティーがあったりもします。

初心者は、ホンモノだけを扱う、ちゃんとした筋の画廊で買うのが一番なんです。

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●ネットでは人には真似のできない、特徴のあるアートを狙う

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アーティストにはイロイロなタイプの方がいらっしゃいます。

他の作家さんには作れないような作品を作る作家さんの作品を集めるというのは、無難だと思います。

版画を見ていると、『この作品は、あの人にしか作れない』という、特徴のある作品を沢山見ることができます。

油絵などよりも、版画には、個性が顕著に出る場合が多いです。

それくらいの作品を作れなければ、版画家として食べるのはムリということでもあります。

オジャラは、ヤフーオークションで何枚か、銅版画の作品を買いましたが、どれも本物でした。

サインもしっかり入っているし、なによりも、どの作品も、人には真似できない、素晴らしい出来でした。

そういう、『他の人には作れない版画』作品の場合、プレートマーク、サインとエディションが入っていれば、

ほぼホンモノに間違いない場合が多いです。

この三点は、アタシでも必ずチェックしています。

ネットオークションの写真展示で、サインとエディションがあっても、プレートマークが

ハッキリしない作品は、ホンモノかどうか判断できないので、アタシは安くても買いません。

(左がエディション、中央にタイトル、右にサインが普通です。)

プレートマークというのは、絵を四角く囲む、筋のようなモノです。

銅版画の場合、高圧をかけて印刷するので、銅版の厚みまで、紙に刷り込まれます。

写真であっても、この銅版の、凸凹は、必ず見ることが可能です。

プレートマークをわざと入れないで撮影している銅版画は怪しいです。

この確信が自分で持てない作品は、避けています。

自分でも、銅版画を作っているので、展示されている銅版画作品が、

ホンモノかニセモノか、普通の人に作れるのか作れないのかが解るのです。

もし、ニセだとしても、安い価格であれば、そんなには懐は傷まないです。

なによりも、ニセであっても、こんなにクオリティ高い作品なのであれば、アタシは満足だという域です。

本物には、そういう、ニセとは違う力が秘められているのです。

逆に、シルクスクリーン版画や、リトグラフには、版に厚みがないので、

プレートマークはできません。

サインをいくら写真で見ても、本物かどうかを確認するのは難しいです。

私はリスクが高いと考えて、ネットでは、銅版画以外は買いません。

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●画廊はどうしているのか?

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画廊だって、騙されたくない。

画廊は、信用が第一です。

版画の約束を守る作家の作品で、作品の管理もキチンとしている、作家本人から買い付けることが多いのです。

もしくは、作家から、作品を借り入れて、売れた場合、マージンを取るというケースもあるみたいです。

ある程度販売が見込める場合、画廊が展覧会を企画して、お客様に声を掛けるみたいな、そんな形です。

そんなもんでね、アーティストと自力でトモダチになれないアナタは、画廊を通じて買うのが一番安全です。

ヤフーオークションや、インターネットの作品というのは、安いですけど、粗悪な品も混じっています。

多少、値段は高いかもしれませんけど、画廊が、本人から直接買い付けた作品であれば、ニセということは有り得ません。

これが、もう、死んだ人の、ピカソとか、マチスとか、フジタとか、そういう人の作品だと、ビミョーっすね。

確かに、銅版画ですけど、サインがない。

本人の死後、ホンモノを刷り増したものか、全く新しい版を、職人が、作り直したのかも、解らないじゃないですか。

どちらでも、ピカソの作品として売られているんです。

7万円だったら、複製品と思われるし、70万円だったら、ホンモノかもしれません。

でも、ピカソ本人に確認してもらうということは、二度と出来ないわけですからね。

オジャラは、ピカソ美術館へは3つ行き、日本に来ている展覧会もほとんど行ってますけど、

それでも、画廊で売られているピカソの銅版画には、手を出せません。

値段も値段ですけどね、ポストカードを、無料でもらえたりすることがありますしね。

自分の生活が逼迫するほどの価格の品を買うべきではありません。

失敗するのが嫌な方は、そういうのには、手を出さないことだと思います。

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